子どもの頃家には井戸から水をくみ上げるための手動ポンプがあった。
町には上水道が普及しはじめた頃で飲料用には上水道の水を,洗濯や風呂には井戸の水をというように上水道の水と井戸水とを併用していた。
母の里の田舎にはまだ上水道がなかった。
裏庭に釣瓶が付いた大きな井戸があってそこから水を酌んであらゆることに使用していた。
母と一緒に里帰りしたときに食べる井戸水で焚いたご飯が美味しくて何回もおかわりをした。
子どもは井戸のまわりに近づくことをかたく止められていたが,何か得体の知れないものが這い出して来るのではないかという恐怖におののきながら,内緒で井戸の底の暗闇を覗いていたことを覚えている。
都市化の波と環境問題の深刻化の中で,井戸は家庭から姿を消していった。
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