神楽を観るのが好きだった。
私が育った地域には「備中神楽」という神楽があって「天岩戸開き」や「大蛇退治」「国譲り」などの神代神楽が演じられた。
子どもたちに一番人気だったのは「国譲り」の演目だった。
この演目の中で,大国主命がお菓子を撒いてくれるのである。
このお菓子を子どもたちは「福の種」呼んでいた。
観客席に投げ込まれるお菓子を,一つでもたくさん拾おうと必死になったものである。
神々に扮した神楽師が言う台詞の意味はほとんどわからなかったが,その剽軽な仕草や,テンポの良い掛け合いに時を忘れて観入ったものである。
故郷に帰ったとき,機会に恵まれれば「備中神楽」を観ることがある。
「備中神楽」を観る度に,当時のわくわくした心の高まりを覚えるのである。
現在「備中神楽」は「国指定重要無形民俗文化財」に指定されている。
|